名古屋地方裁判所豊橋支部 平成8年(ワ)142号 判決 1998年4月22日
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 〔証拠略〕によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 平成三年四月一九日、本件選挙に先立ち、選挙立会人の打ち合わせ会が開催され、協議事項につき協議が行われた。そして、同月二一日、本件選挙が施行され、同日午後七時四五分に本件選挙会が開催された。
本件選挙の開票作業においては、完全無効票や疑問票は点検第三係に回され、同係において白票や単に記号のみを記載したような完全無効票と、それほどではない不完全な票とに大分類された。不完全記載票は、有効、無効、いずれにも判断しがたい投票の三つに分類され、その区分された票の効力に関し、選挙立会人の意見を聴き協議するものとされた。
協議においては、不完全記載票を点検第三係の机の上に並べ、蒲郡市の職員が説明して傾向を分け、選挙立会人の意見を聴き、鈴木選挙長が有効、無効を判断し、効力が決定された票は、点検票を付した上、候補者別に又は無効事由別に二〇票ごとに結束され、結束点検係に送付するものとされていた。結束点検係は、右投票束につき、点検票に表示された候補者の投票であるか又は点検票に表示された無効事由別に区分されているかを確認し、枚数を点検した上で、選挙立会人全員に目を通させ、全員に押印をしてもらい、もし、立会人が効力につき疑問を持った場合、その票を折り畳んで分かるようにし、意見票を付けて回すことになっていた。
(二) そして、本件選挙においては、五五四一票の疑問票が存在し、右票は点検第三係に送付された。山本点検第三係長は、その中の本件投票につき、立会人の協議に付した。右協議においては、通称の方が一般化していること、同じ性の人は名前を重点的に宣伝するといった事情を考慮しつつ、立会人全員の意見をまとめて鈴木選挙長が本件投票を無効と判断した。本件投票を無効とすることにつき異議を述べた立会人はいなかった。なお、点検第三係では投票の効力判定のための資料として、全候補者のポスター、投・開票事務ノート、選挙公報、選挙判例集等の資料を用意しており、投票の効力の判定の際に利用した。
以上の事実を認めることができる。これに対し、証人飛田正一は、平成三年四月一九日に行われた選挙立会人の説明会において、投票の効力につき上位三文字が合えば有効票とみなすこと、選挙ポスターに記載された通称名である「ヤッチャン」とか「森竹」という投票は有効票と見なすことなどの説明がなされ、また、選挙立会人として点検した無効票の中に本件投票は存在しなかった旨供述している。しかし、同証人は、重要な事項として書面(〔証拠略〕)まで配布されて説明された事項や選挙当時の記憶は明白ではないが、原告の主張に副う右事柄についての記憶は鮮明であるというのであって不自然であり、同人の証言をたやすく採用することはできない。
2 ところで、二人以上の候補者の氏名を含む投票の効力については、両者の氏名を混記したものとして、いずれの候補者になされた投票か判別し得ず無効とされるか、一方の候補者の氏名を誤記したものとして当該候補者に対する投票として有効とされるかのいずれかである。そして、投票を二人の候補者の氏名を混記したものとして無効とすべき場合は、いずれの候補者氏名を記載したか全く判断し難い場合に限るべきであって、そうでない場合には、いずれか一方の氏名にもっとも近い記載のものはこれをその候補者に対する投票と認め、合致しない記載はこれを誤った記憶によるものか、又は単なる誤記によるものと解するのが相当である。
3 この点についての本件行政訴訟における裁判所の判断は、本件投票は、上から三文字分についてまでは原告の氏名と合致し、これに対し対立候補者については名の二文字分についてしか合致していないこと、氏については「大場」、「小林」と全く語感を異にすることなどからすると、本件投票につき原告に対する投票として有効であるとの見解を採用した。
しかしながら、〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、本件選挙は、蒲郡市議会議員を選出する地方選挙であり、同姓のものが多いという蒲郡市の地域事情から本件選挙の候補者中にも「大場」姓が三名、「小林」姓が二名いたこともあって、選挙活動においては氏よりは名に重点を置いた選挙活動が行われていたことが認められるところ、この認定事実と右1で認定した事実を併せ考慮すると、本件投票の記載が、形式的な面において原告の氏名と上位三文字が合致していて、対立候補者である小林康宏については名の二文字しか合致しておらず、原告との合致より少ないからといって直ちに原告に対する有効投票となしうるものかどうか必ずしも明白であるとはいえない。したがって、本件投票の効力については微妙な判断が要求されるところであり、この点に思いをいたすと、本件投票を原告に対する投票として有効と判断しなかった鈴木選挙長の判断に過失があったと断ずることはできない。
二 争点2について
原告は、本件投票につき選挙立会人の協議に付していない旨主張し、山本英朗の証人調書(〔証拠略〕)には右主張に副うかのような記載があるが、しかし、同人も不完全疑問票のすべてについては立会人の協議に付しておらず、一、二のサンプルを示して同意を得たというにとどまり、そのサンプルに本件投票が含まれていたか否かについては明確な記憶がないというのであって、この点につき、証人鈴木繁玄は、本件投票を選挙立会人との協議に付したとし、その協議の内容も明確に述べていることが認められ、この事実に照らすと、本件投票は、選挙立会人の協議に付されたものと認めるのが相当である。
三 争点3について
1 〔証鍵略〕によれば、本件投票は、平成三年八月一日に愛知県選挙管理委員会が審査請求の審理をするため、本件選挙会終了時に、すべての選挙立会人の印で、厳重に封印されていた投票の入った箱を再開披した時、無効投票点検票に鈴木選挙長及び一〇人の選挙立会人の確認印のある二〇票束の無効投票の中から抽出されたことが認められる。そうすると、本件投票は、本件選挙会で、すべての選挙立会人の点検、確認を受けたものである。右認定に抵触する証人飛田正一の供述は、右本件投票が抽出された経緯に照らすと、たやすく信用できない。
2 また、按分票が全くない加藤末男票が開票最終盤で突然八票も現われたことについては、〔証拠略〕によれば、本件選挙管理員会は開票結了以前の開票速報を出す段階で加藤末男の右八票を把握していたが、同人よりも票数の少ない原告が、按分票の配分を受け、加藤末男票を上回る可能性があったため、とりあえず両者を同数で発表したに過ぎないものであることが認められるのであって、鈴木選挙長らに違法の廉は認められない。
3 さらにまた、鈴木選挙長と加藤末男との密接な関係、原告と市長との確執などから、原告を落選させるべく、作為的な開票作業が行われたとの原告の主張については、本件全証拠によるもこれを認めることができない。
四 結論
以上のとおりであるから、その余の点の判断に進むまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 大津卓也 裁判官 藤田敏 影浦直人)